音楽談義 vol.14 りぶさんの「Ribing fossil」を聴いて

ニコニコ動画は僕ら世代のサブカルの象徴だった。ボーカロイドやTHE IDOLM@STER、東方projectなど、オタク文化の火付け役達が多く存在した。そんなニコニコ動画もYouTubeに役割を取られ、規模も縮小傾向にある。かくいう筆者も最近はめっきりニコニコ動画なんて見ない。だけれども、ある人が帰って来てアルバムを出すと聞いたら、戻ってくるしかないのである。

それがりぶさんである。かつてボーカロイドの歌ってみたカテゴリで圧倒的人気を誇っていた方。どのくらい凄かったかというと、上げた動画は一日で10万再生以上、常にランキング上位を独占していた。ちなみにニコニコ動画は今は違うけど、昔はアカウントがないと見られなかったから、一日で10万再生を越えるというのが如何に凄まじいかわかるだろう。これまで三枚アルバムを出し、その内2ndと3rdは実力が認められ、ボーカロイド専用レーベルではなく一般のアーティストが所属するビクターエンターテイメントからリリースとなった。渋谷系の代表格であったCymbalsのコンポーザーの沖井礼二さんやダンスロックでその名を世に知らしめたDOPING PANDAのフロトマンのフルカワユタカさんからの楽曲提供を受けるなど、プロも認める実力であった。しかし、3rdアルバムリリース後、急に更新が途絶えた。そのまま二年近く新曲もないし、SNS上の更新もなくなった。引退したのでは、そう皆が囁いた。そんな中突如復活して上げた曲が爆発的にヒットした。

ドラマツルギーという曲だが、これを突然上げて大ヒット。今でもニコニコのランキングでは常に上位、ニコニコでは800万再生越えと圧倒的な人気である。EVEさんの曲のよさもそうだが、サビで一気にがなる声も魅力的。

さて、そんなりぶさんが先日4枚目のアルバムを出した。上のドラマツルギーも収録されているので是非。今回のアルバムはUNISON SQUARE GARDENのベースの田淵さんが参加するなど、豪華な演奏陣を迎えての作品であった。勿論12曲あるいずれもが本当にハイレベル。そんな中、トップ3を上げて解説していきたい。ちなみに筆者はAmazonで発売から３日ほど経ってようやく手に入れました。富士吉田に気軽に行けるCDショップがあればなぁ。さ、発表しましょう。

第3位…生命の名前

過去３作品にいずれも楽曲提供している西沢さんPの曲。りぶさんの声を一番よくわかって曲を書いているのが伝わる。ギターリフが気持ちよすぎるし、前回のアルバムのsinging(作詞作曲りぶ)を踏まえて、更に今回のRibing fossilというタイトルを踏まえた詞が秀逸。「僕がいないなら、いないできっと別の誰かがやるでしょって、そんなことを考え中」という内向的な詞が刺さる。ラスサビでの転調は一転して突き抜けたような明るさ。今まできまぐれスターダム、スタートアウト・リピートショー、センチメントリバースと来ての四作品目だが、一番好きになった。

第2位…fossil

アルバムラストを飾るに相応しい曲。作詞作曲はりぶさん本人。編曲は人気ボーカロイドプロデューサーのkemuこと堀江晶太さん。空白の4年半を振り返りつつ、前のアルバムのsingingのアンサーソングになっている。歯切れのいい軽快なサウンドによるリフはYELLOW MONKEYの楽園を彷彿とさせる。その詞は臆病で内向的。でもsingingより更に一歩踏み出そうとする初期衝動のような熱も感じる不思議な曲。「臆病思考の錆び付いた扉を今開けるから」という歌詞が4年半止まった時間を再び動かすような感動を与える。

第1位…カナリユラレテル

Q-MHz作曲のこの曲が一位。まずベースが田淵さん。この時点で期待大。ベースラインはとにかくアグレッシブ。特にBメロは動きまくり。でも、メロディラインは決して邪魔しない。田淵さんのベースが高く評価される由縁はここだろう。メインコンポーザーの畑さんも注目だ。特に2番Aメロのピアノアレンジはリスナーとしてとても新鮮。歌詞も今回のRibing fossilをよく考えて書かれている。イライラはしない、ジタバタはしようという歌詞から模索して生きる姿が見えるし、２番にはfossilともっと直接的に出てくる部分がある。一番好きな歌詞は「さりげないから忘れちゃった。気配りより迷惑の方がそう印象に残るんだろうなきっと」という部分。少し内省的でどこか共感できてしまう詞をさらっと書ける畑さんは素晴らしい。

全体的に内省的、内向的な詞の曲が目立つが、不思議とジメジメした感じはない。singingはかなりそこを感傷的に描写していたが、この4年半で大きく変わった気がする。気がするだけかもしれないけど。そんなRibing fossilは好評発売中なんで是非とも買いましょう。今回上げられなかった残りの9曲も一切外れなしの良アルバムです。

↓先行発表された「夏は雨晒し」。バイオリンのリフがいいよね。