音楽談義室

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音楽談義 vol.45前編 毎日Pink Floydその10『ザ・ウォール』

 今回は長いぞー!気合入れます。うぉおおおおおお!!!はいそこ!「無駄無駄無駄!!」って言わない!!オラオララッシュしますよ!!

 

 なーにやってんだ俺は。本題に戻りましょう。今回はPink Floydの『The Wall』(邦題:ザ・ウォール)を解説していく。前作や前々作から顕著だったロジャー・ウォーターズ独裁政権が最も如実なアルバムだ。だから、時としてこのアルバムを「ロジャー・ウォーターズのソロ作品」と呼ぶことも少なくない。確かに、Pink Floydというバンド要素は薄いかもしれない。だが、悔しいかな、これが名盤なんだよなぁ。セールスも素晴らしく、2300万枚も売り上げている。ということで、このアルバムをここからは深く掘り下げていこうと思う。

 

 この『ザ・ウォール』はアルバム一つで一つの物語を為している。二枚組のアルバムなだけあって、フルですべて聴くと81分もかかる。中々腰を据えて聴かないといけない作品だ。前述の通り、ロジャー・ウォーターズのワンマン体制であり、意見的に対立したリチャード・ライトを解雇してラインナップから外すほどであった。ここは正直受け入れたくない。Pink Floydの素晴らしいディスコグラフィーは間違いなくライトのキーボードによって支えられていた部分が大きいわけで、ウォーターズの悪い意味で利己的な部分が出てしまったと思う。彼は資本主義を批判した曲を多数書き、共産主義を宣言しているが、社会主義共産主義として有名なスターリンポルポト毛沢東のように粛清する部分まで同じだったとは皮肉以外の何者でもない。気に食わないものは弾圧して粛清する、それでいて本人達は自分の正義の名の下で動いているから悪意がないのもタチが悪い。筆者はこういう部分が嫌いだから根っこからの資本主義肯定派である。まぁ、ライトもライトで癖が強い人物だからそれも原因ではあると思うが。話は逸れたが、ライトをお払い箱とし、サポートメンバーに降格させる程までバンドの関係は荒んでいた。しかし、作品は素晴らしい。ここからは『ザ・ウォール』の物語について迫っていく。

 

 主人公はロックスターのピンク・フロイドである。父は第二次世界大戦で失っている。ちなみに、これはロジャー・ウォーターズ本人のノンフィクションであり、これが原因で彼は日本が嫌いである。彼は大人や現代社会の醜悪な側面を受けて成長し、徐々に他者と疎外感を覚えて「壁」を作っていく。もちろん、この「壁」は本来は心理的なものだが、本作品では物理的な「壁」も作られていく。ちなみに、後述するがピンクが薬物中毒で精神を崩壊するシーンはシド・バレットをモチーフにしている。恐るべしロジャー・ウォーターズシド・バレット愛。もうええやろって言いたくなるくらい作品に流し込んでくる。最終的には完全に心を閉ざしてしまった後に心の中で裁判が行われて、壁が取り払われる。しかし…となっていく話である。かなり端折って話したが、詳細は後ほど。では、一枚目の個人的ハイライトをちょくちょくかいつまんでいく。

 

 最初の曲、『In The Flesh?』(邦題:肉の中で?)の冒頭では何やらボソボソ喋っている。ここは最後にもう一度触れたいのでここでは敢えてノータッチで。静かな所に重々しくギルモアのギターが鳴り響いて始まる。この曲の歌詞はあまりにも抽象的すぎて上手く解釈できない。音像としてはギターリフがかっこいい、以上!ロジャー・ウォーターズのソロ作品と揶揄されるこの作品だが、やっぱりPink Floydの作品には彼のギターしかあり得ない。最後に鳴り響く飛行機の音は戦闘機の音、産声はピンクのものだ。

 

 Tr.2の『The Thin Ice』は前半の暖かみのある歌詞、後半の社会への驚くほど冷めた目線がギャップとして強く効いている曲。いつ落ちるかわからない闇を『薄い氷』に例えている部分は流石と言うべき曲。アウトロのギルモアのギターがかっこいい(n回目)。

 

 Tr.3は『Another Brick in The Wall Part1』である。Part1と言われているだけあって、この後Part2と3がある。この曲は戦争で失った父へ子どもが想いを寄せる曲だ。そしてこうしているうちにも徐々に壁は出来上がっていく。brickとはレンガという意味、つまりレンガの構成要因になっているというわけだ。ギルモアのブリッヂミュートの聴いたギターとウォーターズのベースの掛け合いが堪らない。そして溜め込まれた緊張感は次なる曲へと移る

 

 Tr.5は『Another Brick in The Wall Part2』である。Tr.4から繋がって一曲と捉えられる事が多い。歌詞は学校教育への皮肉を前面に押し出している。先生がガミガミと叱りつけ、子どもがどんどん心を閉ざしていく様子が極めて写実的に描写されている。こうした環境もピンク少年の心に壁を作る原因になっていく。MVも貼っておくので見てほしい。

 

少し目を背けたくなるシーンも出てくるが、よく練られた曲である事には間違いない。この曲はシングルカットされ、このアルバム内でおそらく最も有名な曲だ。ギターリフも特徴的なので、一回聴いたら忘れられなくなるだろう。あと、アウトロのギルモアのギターが素晴らしすぎる。もう何度も言っているが、Pink Floydサウンドを支えているのはやはりギルモアのギターなのだ。ウォーターズがいくら独裁政権を敷こうが、結局音像的にはギルモアに頼らざるを得ないということが、どれほどまでに偉大なギタリストかを証明している。

 

 Tr.6は『Mother』だ。緊張感のある曲が続いた所で、アコースティックギター中心の柔らかい曲へと変容する。中期Pink Floydの独特な高揚感と浮遊感が上手く再現されている。父を知らない子どもは母に頼るしかなく、マザコンになっている様子が窺える。「ママ、これはしていいかな?」「あれはしていいかな?」と逐一尋ねるピンク少年がそこにはいる。それは同時に母親もまた、子どもに依存している証拠なのだ。最後の歌詞は"Mother, did it need to be so high?"と締められている。「ママ、こんなに子どもを過保護にする必要あるかい?」という言葉が痛いほど確信をついている。

 

 Tr.7は『Goodbye Blue Sky』である。冒頭は鳥が鳴いている優しげな世界に突如として重苦しい音が響く。これは戦闘機の音だ。子どもが「お空に戦闘機が」と言うと曲が始まる。戦争のせいで澄んだ青い空が汚されていくことを歌っている。アコースティックギターで優しく語り上げているが、内容は驚くほど重たい。

 

 Tr.8、9はまとめて解説したい。まず、Tr.8の『Empty Space』について。歌い始めのボソボソ喋っている声は逆再生してみると…是非面白いのでやってみてほしい。どうしたら壁が完成するのかと苦悩するピンク少年を乗せて曲はTr.9の『Young Lust』に移行する。歌詞からは若き青少年が性欲にまみれている様子が窺える。タイトル自体『若き肉欲』だし、かなり直球な歌である。このアルバムの中ではほぼ唯一ギルモアが作曲している。いい意味でPink Floydらしくない、正統派なロックンロールだ。個人的にはこの曲とDisc2のある曲がツートップで好きだ。ピンク少年は父を戦争で失い、学校教育により抑圧され、過保護に育てられ、歪んでしまった。そしてそのねじ曲がったことで生じた壁はどんどん完成へと突き進む。ちなみにアウトロの電話はアメリカからの電話だ。いくら電話しても繋がらない。すぐ切られてしまう。本来妻が応対するはずなのに、ここでは男が応対し、しかも切られてしまう。これってつまり…。

 

 Tr.10は『Out of My Turns』。前半のぼんやりと白昼夢でも見ているかのような曲調から一転して、後半はダイナミックに展開される。破局寸前の重苦しい様子が痛々しく歌詞にされている。女性がいくら話しかけてもピンクはずっとラジオなのかテレビをずっと見ているばかり。女性の話とラジオの話が妙に噛み合っているのは皮肉か。「次は自分の番か」と言っていることから、ピンクは浮気されていることがわかっている。先ほどの電話の応対もここで辻褄が合う。そして、何かを投げて破壊する音も聞こえる。これはDVかなにかと推測できる。そして女性は逃げてしまう。"Why are you running away?"という悲痛な叫びが辛い。

 

 Tr.11は『Don't leave me now』。行かないでとタイトル通り悲痛な曲だ。愛する者を失った悲しみにうちしひがれるピンクが佇む。曲調もリチャード・ライトの重厚な鐘のように響くキーボードが印象的な曲だ。悲しみにより、ピンクの壁はどんどん完成に近づいていく。

 

 Tr.12は『Another Brick in the Wall Part3』である。ここでpart3が現れる。精神安定剤すら捨て、何もかも自暴自棄になり暴れ狂うピンクの様子が顕著だ。曲調もこれまでのPart1、2よりも圧倒的に暴力的だ。そして暴れ狂ったピンクは壁を完成させ、外界との関わりを完全にシャットアウトしてしまう。Tr.13の『Goodbye Cruel World』は世界に別れを告げて去る曲だ。社会に許容されなかったピンクの悲しい末路である。こうしてDISC1は終了である。

 

 今回はザ・ウォールの一枚目を解説した。後日二枚目の解説も行う。それでは。

 

アルバムジャケット

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