音楽談義室

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音楽談義 vol.38 毎日Pink Floyd その5『原子心母』

 男性は歳を取るにつれて太るって本当なんだなと最近実感している。中学時代には散々ガリガリと言われていた筆者も、最近は腹が出てきてしまった。しっかり運動しなくては…。あと酒の量減らさないと。焼酎をついつい飲む癖をやめないと。

 

 今回は、Pink Floydの5作目、『Atom Heart Mother』(邦題:原子心母)を解説していく。正直、このアルバムを紹介したくてこの企画を始めたと言っても過言ではない。何を隠そう、筆者の一番好きなアルバムこそこの『原子心母』なのだ。

 

 あまりにも好きなアルバムなので今回は長くなることを先に断っておく。このアルバムはA面23分を丸ごと使った『原子心母』、B面ラストの13分程度の『アランのサイケデリック・ブレックファースト』が中心にあり、その間を短い『If』、『Summer'68』、『Fat Old Sun』で埋めている。そして、そのいずれもが一線級の名曲なのだ。

 

 表題曲でありA面23分を余すことなく使っている『原子心母』はPink Floyd史上最高の大作だろう。曲冒頭のバイクを遠くで吹かす音、終盤の爆発のような音からリチャード・ライトの静かなキーボードと終始様々な展開で聴き手を楽しませる。途中には合唱団の環境音楽のようなコーラスもある。そして巡り巡って最後は最初と同じリフを多くの楽器と共に奏でる。とても雄大だ。まるで巨大な牛一匹を許容してしまうほどの大きな牧場、青い空を見ているかのようだ。そう、これはまごうことなきアルバムジャケットのことである。一見牛一匹のシュールなジャケットだが、アルバムを聴き終えた後では強く意味のあるものへと感じてくる。以前、このアルバムジャケットについて「聴き終わったらこれじゃないとと思わせてくれる」と書いたが、まさにこのことである。全てを許容する大地、ちっぽけな人間を覆い尽くすような青空、そこに静かに佇む牛。このアルバムを聴いてそんな感情を抱いたヒプノシスに称賛を送りたい。バンド感が薄いと言われがちだが、中盤のギルモアのギターはとても叙情的。全体を通して考えると、一つの映画を観ているような感覚に陥る。

 

 B面一曲目は『If』。Pink Floydならではの薄暗い部屋の片隅が容易に想像できるような陰鬱さと、不思議な浮遊感を感じさせてくれる。ロジャー・ウォーターズの囁くようなボーカルも想像を強く掻き立ててくれる。これが大ヒット作へと繋がる布石だったという話もあり、この頃からウォーターズの類稀なる才能が明らかである。

 

 B面二曲目は『Summer'68』。リチャード・ライト作曲のこの曲は多幸感満載。サウンドスケープとしては浮遊感も強めで、サイケデリックな様子だ。一方でギルモアのギターも強く効いている。A面がバンドが薄かっただけあって、B面はグルーヴ感が強めである。サビのコーラスワークも大好きな一曲だ。

 

 B面三曲目は『Fat Old Sun』。ギルモアの作曲だ。気怠げなボーカルとアコースティックギターが印象的である。白昼夢でも見ているかのような浮遊感、陰鬱ながら不思議と閉塞的には感じない曲構成と、すべてにおいて優れた名曲である。アウトロのギターソロも魅力的だ。裏声のまま掠れていくアウトロのボーカルも哀愁漂う。ちなみに、イントロ部分は耳を澄ますと面白い音が聴こえてくる。

 

 B面最後は『アランのサイケデリック・ブレックファースト』。もうね、凄すぎます。この曲は。アランという一人の男性の朝の様子を描いている。水の滴る音に始まり、扉を開け閉めする音、話し声、牛と思われる動物に餌をあげる音、トーストの焼けた音、コーヒーを注ぐ音など、生活をワンフレームを切り抜いたような曲だ。サイケデリックと入っているだけあって浮遊感満載で、とにかくぶっ飛んでいる。普通に考えて、朝の生活音に楽器音加えて曲にするなんて頭おかしい。でもそんなことさえやってしまう。これがモンスターバンド、Pink Floydなのだ。そして、その情景が音だけでありありと浮かぶのも凄まじい。本当に名盤だと思う。

 

 このアルバムは賛否両論ある。バンド感が薄いから嫌いという声もある。だが、筆者は数あるPink Floydの名作たちの中でも一番好きだ。この作品が一番だと胸を張って言うことができる。素晴らしい作品だ。是非LP盤を買って、大迫力の牛ジャケットを見てほしい。そして、針を落として流れてくるあらゆる音に耳を傾けてほしい。聴けば聴くほど色々な個性的な音が聴こえてくるはずだ。

 

名曲度:10

おすすめ度:10(文句なし)

 

アルバムジャケット

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改めて見ると凄いジャケットだな…。