音楽談義室

音楽とか文学とか完全に趣味を語るブログ

音楽談義 vol.41 毎日Pink Floydその7『雲の影』

 この外出自粛期間で一番辛いのが漫画喫茶に行けないことだ。本当はHunter×Hunterとかハガレンとか今話題の鬼滅とかヒロアカとか読みたい漫画がたくさんあるのだが、それらが読めないのがストレスだ。そういえば、ジャンプは月額980円で毎月読み放題のサブスクをやっているので興味がある人は登録することをおすすめする。朝の電車内、混んでいて本が読めない時はスマホでジャンプを読もう。

 

 前回の記事にも書いたが、今回紹介するアルバムはこの企画で初めて聴いたアルバムだ。なんせ、このアルバム自体、少し特殊なのだ。この『Obscured by Clouds』(邦題:雲の影)は映画のサウンドトラックである。当時、次のアルバムをレコーディング中に仕事が舞い込んできたPink Floydはレコーディングを中断して、数日籠ってこのアルバムを完成させた。そもそも映画のサントラであることに加えて、数日間で突貫工事的に作られたアルバムだ。あまり評価は高くない。そしてこのアルバムの影が薄い理由は、その前後にリリースされたアルバムがあまりにも名盤すぎたのだ。前にリリースされたのは『おせっかい』で、これはイギリスでスマッシュヒットを記録した。後にリリースされたアルバムはもう世界的大ヒット作だ。となれば、中間にあり、即席で作られたこのアルバムの評価は当然低い。メンバーもそこまで本腰を据えて作ったわけではないらしく、何かと影が薄い。筆者も上記の理由からなんとなくこのアルバムを避けていた。

 

 そして今回、このアルバムを初めて聴いたのだが、感想としては「あれ?そこまで悪いもんじゃないぞ」というところだ。次に出るアルバムが問答無用のモンスターアルバムで、前に出た『おせっかい』はエコーズという傑作を抱えているため、そこと比較するとどうしてもパンチには欠ける。だが、Tr.4の『The Gold's it's in the…』のギルモアのギターがとにかく粗っぽくてかっこいい。こういうサウンドスケープは後の作品と通じる部分が非常にあると確信できる。これに関してはそのアルバムの紹介ですることとする。Tr.7の『Childhood's End』はタイトル通り『子ども時代の終わり』、つまり過渡期に立たされた人間を巧みに描写している。なお、ここで使われる走っているような音や、キーボードの音は是非覚えておいてもらいたい。明日のアルバムと密に関わってくる。このように、確かに影が薄いアルバムではあるが、決して悪い作品ではないよねというところが感想である。というか、個人的にはかなり好きな作品かもしれない。これは聴き込めば名盤に化ける可能性アリなアルバムといえる。ちなみに、前述の通り映画のサントラなので、元の映画ももちろんある。『La Valle'e』という映画であるが、この映画のフィルムがどこにも見つからない。一度は見てみたいものだ。

 

 今回は『雲の影』を紹介した。明日紹介予定のアルバムが超ド級のモンスターアルバムなので、自分如きの拙い言葉で上手く説明できるか些か不安だが、なんとか魅力が伝わるよう善処したいと思う。それではー。

 

名盤度:6

おすすめ度:4(正直あまり聴き込めてないからそこまでおすすめはできない)

 

アルバムジャケット

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とにかく幻想的なジャケット。個人的にかなり好み。

音楽談義 vol.40 東方神霊廟のトランスbgmを聴こう

 毎日Pink Floydは今日はお休みさせて下さい。今(12日時点)、筆者の腹は下痢でぐるぐるです。辛すぎる。最近これが多いんだな、ホント。毎日体は1時間弱動かし、犬の散歩もしており、0時過ぎに寝て9時に起きる生活と、一見して健康そうだが体調不良だけはどうにもならない。元々腸が弱く、特に受験期の頃は四六時中お腹が鳴ってボロボロだった。こんな状況では新しくアルバム聴いてレビューなんてとてもできない。ではどうしよう、と思っていたら最近よくやるゲームのbgmを題材にしようと閃いた。

 

 東方Projectを知っているだろうか。原作は弾幕シューティングであり、二次創作として多くの作品も展開されている。企業が制作している作品とは違い、ZUNさんという方がお一人で原作を作っている。そのため、二次創作の規制がとても緩く、それにより多くの人気を確保した。全盛期に比べれば人気は落ちたが、それでもオンリー同人即売会東京ビッグサイトで年2回行えていることを見れば、その地力はまだまだ健在と言える。今、世の中はご存知STAY HOME。家でできる娯楽はギターかアニメかゲームくらいなので、久々に本腰を据えて弾幕シューティングをやろうと、最近よくプレイしている。

 

 さて、東方Projectの魅力として個性的なキャラ、弾幕などと並んであげられるのが音楽である。非常に優れたbgmの宝庫だ。ナンバリングされた所謂「整数作品」だけでも20近く、さらに番外編的作品まで含めるとその数は40近い。そんな中から今回は東方神霊廟のbgmについて取り上げていく。

 

 東方神霊廟は2011年8月に発売された。当時は震災があり、紆余曲折を経てのリリースであった。この作品には、「トランス」というシステムがあり、ざっくり説明するとトランスゲージを溜めて使うことで一定時間無敵になるというものである。このトランスがbgmとどのような関係があるかというと、トランスをしている間はbgmが変化するのだ。中には「あれ?トランスバージョンの方がかっこよくない?」というものもあるので早速見ていこう。今回は通常バージョン、トランスバージョン、そしてその両方をミックスしたミックスバージョンの3つを聴き比べよう。

 

 まずは1面テーマ、死霊の夜桜という曲である。

通常バージョン

 

トランスバージョン

 

ミックスバージョン

 

最初は通常バージョン。儚いピアノの音から展開され、徐々に明るくなっていく。対照的にトランスバージョンは最初からドラムの主張が激しく、ピアノは鳴りを潜めている。そしてミックスバージョンは、2つのいいとこ取りのような曲に仕上がっている。儚げなピアノに打ち込みドラムが鳴り、揚々とした雰囲気と物悲しさを併せ持った曲へと変貌した。

 

さて、次は五面ボスの物部布都のテーマ大神神話伝だ。

通常バージョン

 

トランスバージョン

 

ミックスバージョン

 

まず、原曲は不思議な雰囲気の曲。メロディラインは和風なんだが、使われている音は電子音で、でもどこか懐かしくてと非常に面白い曲だ。一方でトランスバージョンはすっぽりとメロディラインが抜け落ちている。裏で鳴っているパーカッションの音が個人的には特に好みだが、このままでは歯抜け感が否めない。そこで、ミックスバージョン。原曲の綺麗なメロディラインに、トランスバージョンのパーカッションが見事に合わさってより良い曲に生まれ変わっている。ちなみにこの曲は作曲者であるZUNさんが400曲近くある中で一番気に入っているらしい。

 

 最後はExtraボスの二ツ岩マミゾウのテーマである佐渡の二ツ岩だ。

通常バージョン

 

トランスバージョン

 

ミックスバージョン

 

まずは通常バージョン。イントロから掴みは完璧。鮮やかなメロディラインを展開していく名曲だ。一方でトランスバージョンはパーカッション強め。通常バージョンではあったメロディラインがなかったり、かわりに通常バージョンではなかったメロディラインがあったりとこれはこれで面白い。そしてミックスバージョン。イントロの高揚感がより増す。2つのメロディラインが合わさった時の納得感も素晴らしい。

 

 このトランスシステムは、正式名称は霊界トランスである。つまり死者の世界をイメージしているのだ。そう考えると、2つが繋がった時の妙な納得感はこの世とあの世が繋がって一つの大きな輪廻転生として捉えることができている証拠なのかもしれない。さて、体調も快方に向かっているので、明日からはまた毎日Pink Floyd、復活です。

 

 ビジネス本ってどうしても意識高い系の人たちが読んでいる印象が強くて避けていたけど、何かおすすめありますか?今度試しに読んでみます。

音楽談義 vol.39 毎日Pink Floyd その6『おせっかい』

 今日は5月なのに30℃近い。暑すぎる。もうTシャツ一枚だ。あ、ちなみに下は短パンだけど、その上にブランケット。これをしないとすぐに体調崩すんでね。あと、今これ書いているのはうちの大学の初Zoom生配信授業の準備中です。なんか緊張する。

 

 さて、今回紹介するアルバムは『Meddle』(邦題:おせっかい)である。なんともユニークな邦題だが、その真相や如何に。

 

 このアルバム、前回の『原子心母』ほどではないがかなりおすすめしたいアルバムだ。『原子心母』がバンドを離れた実験音楽だとすれば、こちらはバンド体制を維持しながら実験音楽をしている。一般的には『原子心母』よりもこの『おせっかい』の方が名盤とされることが多い。一曲ずつ解説していこう。

 

 まず一曲目は『One of these days』(邦題:吹けよ風、呼べよ嵐)。この時期って変な邦題が多い気がするがそれはさておき、吹き抜ける風から一変して低く唸るベース、華麗なスライドギターと掴みとして完璧な曲である。2月にPink FloydのトリビュートバンドであるBrit Floydのライブで聴いたが、イントロのベースから歓声が止まらなかった。これほどまで緊張感のあるクールなプログレが他にあるだろうか。ちなみに、この曲はあるプロレスラーの入場曲にもなっている。

 

 続く二曲目の『A Pillow of Winds』は一曲目から繋ぎで始まる。どこか午後3時頃のイギリスのような、どんよりとして気怠げな様子が伝わってくる。ここまでの作品レビューを見てくれた方ならわかると思うが、Pink Floydの曲は倦怠感が漂っていることが多い。しかし、それにも種類があり、『神秘』や「モア』の頃とは全く違うものだ。ギルモアのアコギとエレキ目当てで聴いても美しい曲。

 

 三曲目の『Fearless』は一転して多幸感溢れるPink Floydの世界が広がる。音が上がっていく特徴的なリフはオープンGチューニングによるもの。ロジャー・ウォーターズシド・バレットから教えてもらったらしい。オープンGといえばストーンズやハワイの民族音楽のイメージだが、そうしたジャンルまで詳しいシド・バレットの底知れなさに驚く。ちなみに、曲最後の歓声はリヴァプールFCのゴール裏でサポーターが歌うチャントをサンプリングしたものである。

 

 四曲目の『San Tropez』はTotoや10ccのようなピアノが聴いた比較的耳当たりの良い曲。しかし、ボーカルはボソボソと呟くような歌い方をしており、間奏のスライドギターの浮遊感と相まって単なるポップスではないと感じさせてくれる。

 

 五曲目は『Seamus』。2分程度の比較的短い曲だが、犬の鳴き声に始まり、Pink Floydなりのブルースへのアプローチが窺えるなど、印象的な曲となっている。

 

 そして六曲目。B面すべてを使って使った『Echoes』は語ることが多すぎる。これは広瀬君のスタンドで能力は…おっと、ダイヤモンドは砕けないの話はやめよう。まずイントロから鳴る高く響くリチャード・ライトのキーボード。独特の「ピーン」という音は、彼が偶然見つけたらしい。そして曲はゆっくりと展開されていく。前作『原子心母』の『Atom Heart Mother』の爆発後に聴こえたキーボードの音と同じ音色が用いられており、リチャード・ライトは自身の音をこの時点で確かなものとしていたことが理解できる。そしてリチャード・ライトとデビット・ギルモアの気怠げなボーカルも素晴らしい。こうしたアプローチは後の作品にも影響を与えている。詳しくはそのアルバムが来た時に話すが、その時は是非この『Echoes』を聴きなおして欲しい。きっと既に布石が打たれていたと感心するだろう。そして、超大作となるとやはり比較対象は前作の『Atom Heart Mother』である。大きな違いはバンドのスケールかそうでないかである。バンドのスケールである分、『Echoes』の方がPink Floydのメンバーの演奏的なアプローチがよりわかりやすい。また、『Atom Heart Mother』はとても簡単に演奏できないのに対して、『Echoes』は比較的バンドメンバーのみで演奏できる。だから、23分を超える曲だが当時は度々ライブで演奏された。当時の演奏を調べると、ライブでのレベルの高さがわかる。序盤の気怠さから一転して中盤は緊張感あるキーボードのアプローチ。実験音楽的だが、前作よりは理解しやすい方向へ少しはシフトしている。そして再び後半は「ピーン」というリチャードの音。だんだんと音がフェードインしていく。ニック・メイスンのタム、ウォーターズの低く唸るベース、ギルモアの歪んだギター、ライトの妖艶なキーボードの音色。最後は再び気怠げなボーカルパートに戻る。クライマックスは4人がそれぞれの音をぶつけ合い、独特な緊張感と多幸感を合わせながら、徐々にそれらも飛行機の離陸のような音にかき消され長かった23分にも及ぶ曲が締められる。しかし、23分もあるとは思わせない充実っぷりは流石と呼ぶべきか。実に聞き応えのある作品だ。

 

 今回は『おせっかい』を紹介した。個人的には前作の方が好きだが、これの方が好きだと言う人も少なくない。個人的にもかなりおすすめしたいアルバムだ。実は、明日紹介するアルバムはPink Floydディスコグラフィーの中で唯一ちゃんと聴いたことのない作品です。今からちゃんと聴き込まないと。ではではー。

 

名盤度:7

おすすめ度:8(かなりおすすめ。とっかかりとしては文句なしかな)

 

アルバムジャケット

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書き忘れたけどこれもヒプノシスです。というかPink Floydのジャケットは大体ヒプノシス

音楽談義 vol.38 毎日Pink Floyd その5『原子心母』

 男性は歳を取るにつれて太るって本当なんだなと最近実感している。中学時代には散々ガリガリと言われていた筆者も、最近は腹が出てきてしまった。しっかり運動しなくては…。あと酒の量減らさないと。焼酎をついつい飲む癖をやめないと。

 

 今回は、Pink Floydの5作目、『Atom Heart Mother』(邦題:原子心母)を解説していく。正直、このアルバムを紹介したくてこの企画を始めたと言っても過言ではない。何を隠そう、筆者の一番好きなアルバムこそこの『原子心母』なのだ。

 

 あまりにも好きなアルバムなので今回は長くなることを先に断っておく。このアルバムはA面23分を丸ごと使った『原子心母』、B面ラストの13分程度の『アランのサイケデリック・ブレックファースト』が中心にあり、その間を短い『If』、『Summer'68』、『Fat Old Sun』で埋めている。そして、そのいずれもが一線級の名曲なのだ。

 

 表題曲でありA面23分を余すことなく使っている『原子心母』はPink Floyd史上最高の大作だろう。曲冒頭のバイクを遠くで吹かす音、終盤の爆発のような音からリチャード・ライトの静かなキーボードと終始様々な展開で聴き手を楽しませる。途中には合唱団の環境音楽のようなコーラスもある。そして巡り巡って最後は最初と同じリフを多くの楽器と共に奏でる。とても雄大だ。まるで巨大な牛一匹を許容してしまうほどの大きな牧場、青い空を見ているかのようだ。そう、これはまごうことなきアルバムジャケットのことである。一見牛一匹のシュールなジャケットだが、アルバムを聴き終えた後では強く意味のあるものへと感じてくる。以前、このアルバムジャケットについて「聴き終わったらこれじゃないとと思わせてくれる」と書いたが、まさにこのことである。全てを許容する大地、ちっぽけな人間を覆い尽くすような青空、そこに静かに佇む牛。このアルバムを聴いてそんな感情を抱いたヒプノシスに称賛を送りたい。バンド感が薄いと言われがちだが、中盤のギルモアのギターはとても叙情的。全体を通して考えると、一つの映画を観ているような感覚に陥る。

 

 B面一曲目は『If』。Pink Floydならではの薄暗い部屋の片隅が容易に想像できるような陰鬱さと、不思議な浮遊感を感じさせてくれる。ロジャー・ウォーターズの囁くようなボーカルも想像を強く掻き立ててくれる。これが大ヒット作へと繋がる布石だったという話もあり、この頃からウォーターズの類稀なる才能が明らかである。

 

 B面二曲目は『Summer'68』。リチャード・ライト作曲のこの曲は多幸感満載。サウンドスケープとしては浮遊感も強めで、サイケデリックな様子だ。一方でギルモアのギターも強く効いている。A面がバンドが薄かっただけあって、B面はグルーヴ感が強めである。サビのコーラスワークも大好きな一曲だ。

 

 B面三曲目は『Fat Old Sun』。ギルモアの作曲だ。気怠げなボーカルとアコースティックギターが印象的である。白昼夢でも見ているかのような浮遊感、陰鬱ながら不思議と閉塞的には感じない曲構成と、すべてにおいて優れた名曲である。アウトロのギターソロも魅力的だ。裏声のまま掠れていくアウトロのボーカルも哀愁漂う。ちなみに、イントロ部分は耳を澄ますと面白い音が聴こえてくる。

 

 B面最後は『アランのサイケデリック・ブレックファースト』。もうね、凄すぎます。この曲は。アランという一人の男性の朝の様子を描いている。水の滴る音に始まり、扉を開け閉めする音、話し声、牛と思われる動物に餌をあげる音、トーストの焼けた音、コーヒーを注ぐ音など、生活をワンフレームを切り抜いたような曲だ。サイケデリックと入っているだけあって浮遊感満載で、とにかくぶっ飛んでいる。普通に考えて、朝の生活音に楽器音加えて曲にするなんて頭おかしい。でもそんなことさえやってしまう。これがモンスターバンド、Pink Floydなのだ。そして、その情景が音だけでありありと浮かぶのも凄まじい。本当に名盤だと思う。

 

 このアルバムは賛否両論ある。バンド感が薄いから嫌いという声もある。だが、筆者は数あるPink Floydの名作たちの中でも一番好きだ。この作品が一番だと胸を張って言うことができる。素晴らしい作品だ。是非LP盤を買って、大迫力の牛ジャケットを見てほしい。そして、針を落として流れてくるあらゆる音に耳を傾けてほしい。聴けば聴くほど色々な個性的な音が聴こえてくるはずだ。

 

名曲度:10

おすすめ度:10(文句なし)

 

アルバムジャケット

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改めて見ると凄いジャケットだな…。

音楽談義 vol.37 毎日Pink Floyd その4『ウマグマ』

 大学の講義が動画形式で行われているが、これによって一つ感じたことがある。普段の授業の時間が長すぎじゃないかと。一回の動画が30分程度、1.5倍再生すれば20分程度で見ることができる。大体、一人の人間が一回に集中できるのはせいぜい1時間弱が限界なんだし、この際授業時間を短くしてほしい。どう考えても90分授業は長すぎる。講師、生徒共に生産性が低く、誰も得しない。

 

 さて、今回紹介するのは4thアルバムの『Umaguma』(邦題:ウマグマ)だ。このアルバムからようやく世間一般的なPink Floydの様子が窺える。このアルバムは特殊で、一枚目がライブ盤、二枚目がスタジオ盤の二枚組LPとして発売された。まずはディスクごとに紹介していこう。

 

 一枚目はライブ盤。ライブ音源が僅か四曲。しかし、レベルはいずれも高水準。全体を通して1st〜2ndの曲を中心に演奏されている。「スタジオ盤では奇妙な音像だったけれど、実際ライブだとどうなんだろう」と疑問に思う曲たちはライブでも見事である。特にTr.4の『神秘』のライブ音源は流石の聞き応え。ライブ音源だとニックのドラムがより迫ってくる。あまり注目されることの多くない彼のドラムだが、確実にPink Floydの中心を担っている。対照的にギルモアのギターはまだまだ発展途上。この時期でもかっこいいが、今後もっと化けることを知っている後追いのリスナーにとっては物足りなさを感じてしまうかもしれない。

 

 二枚目はスタジオ盤。本格的に実験音楽の様相を呈してきたPink Floydの深淵がそこにある。小さな曲たちが合わさって大きな一曲を構成しているので解説しにくいが、敢えて挙げるとすればTr.3の「Sysphus,Pt.3』と、Tr.4の『Sysphus,Pt4』だろう。1分50秒しかないが打ち付けるような破壊音とともに過ぎ去っていくPt.3は素晴らしい。かと思えば7分と長尺であり、前半の清らかな小鳥の鳴き声から一変し、リチャード・ライトの激しいキーボードの音が鳴り響く後半へと移行していくPt.4も素晴らしい。ようやくPink Floydが2nd、3rdと探し求めていた音像に出会ったアルバムと言えよう。二枚目の構成は個人的にとても高く評価したい。こうして結実した唯一無二のサウンドは、ここから先のPink Floyd黄金時代を支えていくことになる。あ、そうそう言い忘れた。『神秘』、『モア』に引き続き、この『ウマグマ』もヒプノシスがジャケットを手がけている。Pink Floydの多くのアルバムはヒプノシスがジャケットを担当している。

 

名盤度:6

おすすめ度:7

 

アルバムジャケット

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音楽談義 vol.36 毎日Pink Floyd その3『モア』

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自分の現在の机。このBoyataのノーパソ置きはつい数日前にネットで購入した。そのまま置いて作業するとどうしても姿勢が悪くなるので、是非おすすめしたい。あ、導入するならワイヤレスマウスとワイヤレスキーボードもお忘れなく。手が上にある状態も体に悪いんでね。

 

 毎日Pink Floydの3日目、今日は3rdアルバムのMore(邦題:モア)について解説していく。とはいってもこのアルバム、なんせ影が薄い。話題性で言えば『神秘』の方が勝つ。まだまだ方向が出来上がっていない模索中な感じが強い。アイディアとしては優れているがどれも発展途上と言ったところ。正直イマイチ感が否めない。とはいえ解説なのでしっかり曲たちを紹介したい。

 

 さっき散々微妙だとか書いたが、それはあくまでPink Floydという素晴らしいアーティストのディスコグラフィーに囲まれているからの話。決して駄作とは言い切れない。Pink Floyd独特な多幸感、浮遊感はこのアルバムで顕著だ。特にTr.1のCirrus Minorは小鳥の囀り、陰鬱なボーカル、浮遊するリチャード・ライトのキーボードと世界観の作り込みが秀逸だ。後半に差し掛かって深淵でも覗いているようなキーボードの妖しげな音も、徐々に彼方へとフェードアウトしていく音たちもしっかりとした印象を与える。かと思えばTr.2のThe Nile Songではアバンギャルドでハードロックの様相を呈する。ニック・メイスンの手数の多いドラムと、ギルモアの激しいギターとの掛け合いは一聴の価値がある。総じてこのアルバムはジャンルがあちこちに飛びすぎているのだ。散らかっていて、一つのアルバムとしてのコンセプトが感じられないというのが評価の低い原因だろう。ただ、やっている事自体は決して悪くない。こうして色々挑戦した結果として黄金期がある、と考えればこのアルバムも評価に値するだろう。

 

名盤度:3

おすすめ度:3

 

アルバムジャケット

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明日は結構いいアルバム来るから期待してて

音楽談義 vol.35 毎日Pink Floyd その2『神秘』

 毎日、と言っておきながら初日から断念してすみません。度重なる体調不良です。ちなみに、自粛期間中から見始めたジョジョは3部まで見終わった。3部が傑作と言われる所以がよくわかった。荒木先生の戦闘描写が楽しすぎる。スタープラチナかっこよすぎ。

 

 さて、今日はPink Floydの2ndアルバムであるA Saucerful Of Secrets(邦題:神秘)を解説していく。前回、話題の中心だったシド・バレットはこのアルバムのレコーディング中にLSD過剰摂取で脱退する。このアルバムにもシド・バレットの曲が一曲だけ入っているが、まぁほとんど参加していないと言っていいだろう。音楽性もサイケからプログレ実験音楽へと移り変わっていく。シド・バレットの代わりに入ったギタリストがデビット・ギルモアという人物である。今思うと、よく彼のような逸材をPink Floydは獲得できたなと感じる。シド・バレットのぶっ飛んだ天才性とはベクトルが違うが、ギルモアも素晴らしい才能の持ち主だ。その才能の片鱗を、表題曲である『神秘』によって見ることができる。12分のこの曲は、ギルモアが中心に書いた曲だ。長い曲を書く、所謂大作主義の始まりとも言える。そして、ギルモア自身のギターはアバンギャルドからアコースティックまで多くの振れ幅があり、そんな多彩なギルモアによってPink Floydの音楽は更に加速する。一方で、ベースのロジャー・ウォーターズにも言及したい。彼もA面の多くの曲の作曲を手がけ、そのいずれもが高水準だ。Tr.3の『太陽讃歌』がそのハイライトだろう。素晴らしいソングライティングだ。そして彼ら2人の作曲能力が、後にPink Floydを大きく支えることとなる。シド・バレットの脱退とデビット・ギルモアの加入、ウォーターズのソングライティング、大作主義の始まりとも言える『神秘』、音楽性の変化と、アルバム自体はそのまで評価されないが、そのキャリアに与えた影響は計り知れない。彼らを語る上では欠くことのできない1ページだろう。

 

名盤度:4

おすすめ度:7(この時期を知っておくと後の作品たちへの理解がより深まる)

 

アルバムジャケット

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